難民支援のあり方 -「被害者」からの脱却、その実現性-

/ 4月 21, 2017/ 世界/日本社会情勢, 国際協力, 難民

難民問題に関する本”Refuge: Transforming a Broken Refugee System”(今年9月出版)のエコノミスト誌のレビューを目にしました。

今や難民・避難民など強制的に家を追われた人の数は6,500万人で、戦後最大となっています。

レビューによると、世界に散らばる難民の86%は貧しい国で暮らしています。さらに特筆すべきは避難生活の長さ。全ての難民の約半数が、5年以上の長きに渡って避難生活を強いられています。

人道支援の世界で「長引く危機(Protracted crisis)」と呼ばれるように、難民や避難民を生み出す内戦等の人道危機は近年長期化・慢性化する例が多く、避難生活はもはや一時的なものではなくなりつつあります。

レビューでも触れられているように、シリア内戦はもう6年続いており、収束に向かう兆しも見えません。

ケニアのダダーブ難民キャンプで暮らすソマリア難民の中には、「第三世代」と呼ばれる世代(ソマリアから逃げてきた第一世代がキャンプで生んだ子どもたちが第二世代なので、第三世代はそのまた子どもの世代)が1万人存在すると言います。

この本は、著者らがヨルダンのザアタリ難民キャンプ(シリア難民を受け入れている)で実験的に行っている難民の就業プログラムを紹介しながら、新しい形の難民支援を提案します。

研究者の間では「難民キャンプは機能しない」というのが通説のようです。

「国連の難民支援を担うUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は慢性的に資金不足で、その支援活動は年々不適当になりつつある」とし、さらに痛烈な批判を加えます。

Under the prevailing “care and maintenance” model, the UNHCR and its partner agencies act as surrogate states, keeping refugees in limbo for years. That suits rich countries, which pay to keep refugees away, and allays the economic and security fears of their hosts.

(http://www.economist.com/news/books-and-arts/21720615-growing-up-refugee-camp-means-little-education-and-no-jobs-how-improve-prospectsより抜粋)

「UNHCRの現行の支援モデルでは、UNHCRその他の支援団体は諸外国の代理のような働きをし、結果的に難民を何年も忘却の彼方にとどめている。これによって、富める国はお金を出すことで難民を寄せ付けずに済み、受け入れ国の経済的ないし治安上の懸念も軽減されるのだ」といった意味合いです。

こうした従来型の「被害者として甘やかす」難民支援ではなく、職を与えて受入国の経済に貢献できるような支援がなされるべきだ、というのがこの本の主張のようです(本自体はまだ発売されていないのでレビュー上の情報しかわからないのですが)。

私は先に触れたケニアのダダーブをはじめ、難民キャンプないし国内避難民キャンプと呼ばれる場所を10か所以上訪れましたが、難民キャンプは難民問題の解決には寄与しない、その場しのぎの応急処置だという意味で、現行の難民支援への彼らの批判には同意します。難民は自立して生活していけるよう、就業の機会を得られる仕組みと支援が必要だという点でも同意します。

他方、現行のキャンプ型難民支援を何十年かかけてでも縮小して最終的に無くせるかというと、それは極めて難しいと思います。

これは現地で支援に携わった実感ですが、難民キャンプは一つの産業です。そこには多くの関係者の利害が複雑に絡みあっていて、様々な理由でキャンプに残りたい難民以外にも、キャンプを維持したい勢力が存在します。だから、既に出来上がったキャンプを閉鎖するというのは、暴力行為を伴わない平和的な形では非常に難しいと思います。

事実、ダダーブ難民キャンプは、今から1年ほど前の2016年5月に、ケニア政府が強硬に2016年内の閉鎖を進めようとしましたが、現在もまだ24~5万人の難民を抱えたままです。ケニア政府の意向を受けて2016年7~8月に行われた人口調査の時点で27万人程度でしたから、減少幅は極めて小さいと言わざるを得ません。

そうは言っても、自然災害や突発的な戦闘による内戦の勃発など、備えようのない人道危機は繰り返し起こりますし、その時にはきっと「一時しのぎ」の難民キャンプが出現するでしょう。時を経て危機が収束すれば、無事に閉鎖されるキャンプもあるでしょう。そして、それが叶わず存続し続けるキャンプも出て来るでしょう。キャンプの出現が内戦など特定勢力間の対立や安全上の脅威によるものであれば、危機が長期化する傾向はより強くなるように思います。

もちろん、難民の中にはキャンプを出て就業の機会を得たいと望みそれを実行に移せる人も多くいるでしょう。そうした難民たちに仕事を与え、受入国に溶け込んで暮らせるようにする支援の試みはもっと広がっていくべきです。

しかし、キャンプ型支援とそうした新しい形の支援を共存させていくこと、そしてキャンプ型支援を本来あるべき一時的なものに変えていくことには、それよりもずっと大きな困難が伴うのではないかと思います。

(この記事で使用した2枚の写真は、いずれも2016年9月に筆者がケニアのダダーブ難民キャンプで撮影したものです。)

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