空港で生きる家族 -母国での迫害、そして難民申請の拒否-

/ 7月 21, 2019/ アフリカ情報, 世界/日本社会情勢, 難民

また久しぶりの記事になりました。

今回はどうしても書かなければいけないことがあって、是非多くの人に読んでいただけたらと思っています。

 

筆者は先日までルワンダに出張に行っていました。

航路はいつもアシアナ航空とカタール航空を使う韓国、カタール、ウガンダ経由。丸一日かかる長旅です。

もちろんルワンダでの仕事が目的でしたが、今回はどうしても乗り換えで立ち寄る韓国で果たしたいことがありました。

きっかけはこの記事でした。

”韓国の空港で暮らす「アンゴラ人一家」の真実 日本人少女がメディアより先に情報を伝えた”(東洋経済)

日本ではこの記事とその続編(東洋経済:”空港暮らしのアンゴラ人が韓国に入れない事情 「難民認定」の難しさと韓国政府の立場”)以外ではほとんど報道されていませんが、韓国の仁川国際空港に、もう半年以上もそこで暮らしているアンゴラ人家族がいます。

 

この家族、ルレンド一家はアンゴラ出身ですが、内戦を逃れて長く隣国のコンゴ民主共和国で暮らしていました。このようにコンゴに逃れていたアンゴラ人は、母国では裏切り者として差別され、公的権力からも迫害を受けていました。

アンゴラとコンゴ民主共和国の間には現在も軋轢が生じており、韓国メディアの報道によると、2018年10月だけで約33万人のコンゴ人がアンゴラから追放されました(Hankyoreh: ”Angolan family stuck in Incheon Airport for six month as they seek refugee status”)。これは、アンゴラ政府が、主に鉱山労働に従事していたコンゴ移民を追放する命令を出したことを受けた動きで、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)も公式に懸念を表明しました(UNHCR: Mass Congolese returns from Angola could lead to a humanitarian crisis)。

そしてこれに続く11月、タクシー運転手だった一家の父親ルレンド氏が、飛び出してきた集団を避けた時に警察車両と接触したことで、殺人罪で不当に逮捕され、警察から暴行を受けました。

一人の警察官(おそらく同じコンゴからの帰還アンゴラ人だろうとルレンド氏は推測している)が秘密裏に逃がしてくれたことでルレンド氏は生き延びますが、彼を探しに自宅にやってきた警察官によって、ルレンド氏の妻は性的暴行を受けました。

命の危険を感じた家族は教会などに身を隠して1か月を過ごし、自宅近くにあった韓国大使館で取得した観光ビザを頼りに、12月の終わりに韓国へ向かいました。(ここまで参照:東洋経済 ”韓国の空港で暮らす「アンゴラ人一家」の真実 日本人少女がメディアより先に情報を伝えた”

しかし、韓国の玄関口である仁川国際空港で家族は入国を拒否され、続いて1月には難民申請を行う権利すら否定されてしまいます。

一家はUNHCRの仲介によって韓国国内の弁護士の支援を取り付け、入国管理局によるこの決定を覆すよう2月に裁判を起こしましたが、4月下旬に敗訴。7月に控訴審が予定されていましたが、韓国メディアの最新の報道によると、ルレンド一家は弁護士を通し、高等裁判所に対して、入国管理局の判断の違憲審査を要請。この要請が受け入れられた場合、最高裁による違憲審査の判断が下されるまで、控訴審の結果は先送りされるといいます。(ここまで参照:The Korea Herald “Angolan family seeks constitutional review of refugee application rejection”

その間、一家は引き続き空港での生活を余儀なくされます。

 

筆者が仁川空港で一家に会ったのは、出張を終えて日本に向かって移動していた7月17日。

心ばかりの支援をしたく、手元に残っていた米ドル現金を封筒に入れて渡しに行きました。Youtubeなどで事前に見ていたインタビューがどれもフランス語で行われていたので、英語がどのくらい通じるのか不安に思っていましたが、問題なく意思疎通ができました。

封筒を渡し、一家の状況に心を痛めていることを伝えると、夫妻は悲痛な表情で「事態が好転するよう祈るばかりだ」と言いました。

それでも夫妻は笑顔で筆者の手を握って感謝を述べてくれて、子供たちもはにかみながら挨拶してくれました。

それ以上何ができるのかわからず、ここでいったん辞去しましたが、その後考えを巡らせ、もう一度一家のいる場所に戻りました。そして個人で使用している名刺を渡しました。今後も何かの形で支援ができるように。

すると父親のルレンド氏がFacebookでつながることを提案してくれたので、Facebookで友人になり、今後も連絡が取れるようになりました(仁川空港の無料WiFiは安定しているので、通信には困らないようです)。

筆者は、自分がずっとアフリカで仕事をしていること、そしてアフリカに関係している知人が多いことを伝え、日本でも一家の窮状をもっと知ってもらうために、日本語で記事を書くと約束しました。

そうやって今この記事を書いています。

 

 

命の危険を逃れて知らない国へ渡り、裁判を闘いながら丸7か月に渡って空港の一角で過ごすというのがどれほどの苦痛か、私には想像もできません。

筆者は以前、難民キャンプでの難民支援に携わっていましたが、それとはまた大きく性質が違います。

少なくともキャンプには世帯ごとにテントや小屋があり、最低限のプライバシーは保たれていました(難民が一気に大量に流入している場合には、一時的に大人数が一つ屋根の下で過ごすことになりますが、たいていの場合は布を吊るすなどして仕切りを作っていました)。

でもルレンド一家にはそれはありません。眠っている時でも往来する渡航者の目に晒され、時に嫌がらせを受け、子供たちは教育の機会を奪われています。当然医療にもアクセスできず、6月には夫人と次男が体調不良で緊急搬送され、手術を受けたといいます(東洋経済:”空港暮らしのアンゴラ人が韓国に入れない事情 「難民認定」の難しさと韓国政府の立場”)。

一家に余計なストレスを与えたくなかったので、写真は撮っていないし、質問もしていません(子供たちに名前を聞いたのは除いて)。

だからここには写真は掲載できませんが、参照としてリンクしたメディアの記事には写真が載っていますし、Youtubeで「Lulendo Korea」と検索すればインタビュー動画も複数ありますので、一家がどんな環境で暮らしているかはそういった写真や動画でご覧いただけます。

 

報道によると、韓国の入国管理局が難民申請を認めなかった理由は、「難民の地位を申請する根拠が明白に欠如しており、純粋に経済的な理由で難民の地位を獲得しようとしている可能性がある」というものだったそうです(Hankyoreh: ”Angolan family stuck in Incheon Airport for six month as they seek refugee status”)。

もちろんこうした判断は難しいものです。アフリカから欧州へ向かう難民たちの中に、経済的困窮を理由とする移民が混じっていたのは紛れもない事実です。難民キャンプに暮らす難民認定者であっても、経済的な動機を持っている人はいます。

報道では韓国の入国管理局による手続きの不備も指摘されていますし、公的権力から迫害を受けていたルレンド一家が難民の要件を満たさないとは考えにくいですが、そもそも難民認定の要件となる「迫害」と経済的困窮は地続きである場合もあり、いつだって慎重な検討が求められます。

でも韓国政府を批判することができるでしょうか?

主要先進国の中で、韓国の難民認定率は飛びぬけて低く3%程度ですが、日本はそのさらに1/10で、わずか0.3%だそうです(出典:”空港暮らしのアンゴラ人が韓国に入れない事情 「難民認定」の難しさと韓国政府の立場”3頁)。

労働力としての移民にすら頑なな姿勢を崩さないこの国で、難民が歓迎されないのは驚きではありません。ですが、国際社会の責任ある一員としてこの姿勢は問題ではないのでしょうか?

今日行われた参議院選挙でも、移民政策はほとんど争点になっていませんでしたし、まして難民受け入れなど話題にも上らないのが現状です。

 

ルレンド一家に会う2日前、ルワンダで2年半のプロジェクトを無事に完遂した私に、ルワンダ人の同僚たちが一人一人感謝の言葉をくれました。

中の一人が、私に東部アフリカで広く使われるというひとつの言葉をくれました。書き留めていないので本人に確認しないとここに書けませんが、それは現地の言葉で英語の”Humanity”にあたるものだと言われました。”Humanity”は「人間らしさ」や「人道」を意味します。それが私を表す言葉だと。

何年も人道支援に携わっていたから、私が特別なのでしょうか。

そうでないと願いたいです。

2年半日本に留学していた別のルワンダ人の友人は、私にこんなことを言いました。

「日本人はとても優しく美しい心を持っているけど、みんなそれを隠している」

必ずしも同意しない人もいると思いますが、2年半の日本暮らしで彼女はそう感じたそうです。

日本人が皆、優しい心を隠し持っているとして、その優しい心を海の外、アジアの外にも向けられたら、この国はもっと移民や難民に優しくなれるでしょうか。

ここで紹介したルレンド一家の現状を知って何かを感じてくれたとしたら、あなたの心には確実に優しさが眠っています。

どうかそれを再び眠りにつかせず、どのような些細なものであってもいいから、行動として自分の外に開放してあげてください。

それが他の人の行動にも繋がっていくはずです。

 

もし一家の詳細や連絡先を知りたい方がいれば、コメント欄ないしSNSからご連絡ください。

 

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